事業を承継するに当たり、株式(個人事業は事業用資産)の贈与又は相続等に係る贈与税・相続税の納税を猶予又は免除してもらえる制度があります。この制度を活用するには、まず計画書を策定して提出しなければなりません。この提出期限が、来年(2026年)3月末と迫っています。改めて、この制度の概要を確認しましょう。
事業承継に係る税優遇措置として、法人の株式を贈与又は相続等をした際に生じる贈与税・相続税の納税を猶予又は免除してもらえる「法人版事業承継税制」、個人の事業用資産の贈与又は相続等に係る贈与税・相続税の納税を猶予又は免除してもらえる「個人版事業承継税制」があります。
いずれも制度名に“事業承継”と入っていることからお分かりのとおり、事業承継に伴う税負担を軽減することで、事業承継を早期に円滑に行えるよう国が後押しする制度となっています。
これらは、いずれも都道府県知事の認定を受ける必要があることや、時限措置であることが特徴です。
法人版(特例措置) | 個人版 | |
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事前の計画策定 | 特例承継計画の提出 [2018年4月1日〜2026年3月31日] |
個人事業承継計画の提出 [2019年4月1日〜2026年3月31日] |
適用期限 | 10年以内の贈与・相続等 [2018年1月1日〜2027年12月31日] |
10年以内の贈与・相続等 [2019年1月1日〜2028年12月31日] |
対象資産 | 非上場株式等 | 特定事業用資産 |
納税猶予割合 | 100% | 100% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 原則、先代一人から後継者一人 ※一定の場合、同一生計親族等からも可 |
贈与要件 | 一定数以上(※)の株式等を贈与すること ※後継者一人の場合、原則2/3以上など |
その事業に係る特定事業用資産のすべてを贈与すること |
雇用確保要件 | あり(特例措置は弾力化) | 雇用要件なし |
経営環境変化に対応した減免等 | あり | あり ※後継者が重度障害等の場合は免除 |
円滑化法認定の有効期限 | 最初の申告期限の翌日から5年間 | 最初の認定の翌日から2年間 |
法人版事業承継税制は、対象資産が出資している株式等であることから非常に分かりやすいのですが、個人版事業承継税制の適用対象となる「特定事業用資産」とは、どのような資産なのか、その範囲に注意します。
特定事業用資産とは、先代事業者の事業(不動産貸付業、駐車場業及び自転車駐車場業を除く)の用に供されていた次に掲げる資産で、先代事業者の贈与又は相続開始の年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されているもの(先代事業者と生計を一にする親族が所有し、かつ、先代事業者が事業の用に供していたものを含む)のうち、事業の用に供されていた部分をいいます。
資産の種類 | 概要 |
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宅地等 | 事業の用に供されていた土地又は土地の上に存する権利で、建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち、棚卸資産に該当しないもの。(納税猶予の対象となる面積は400uまで。「小規模宅地等の特例」と「相続税の納税猶予」の重複適用は制限があるため注意。) |
建物 | 事業の用に供されていた建物で棚卸資産に該当しないもの。(納税猶予の対象となる面積は800uまで) |
減価償却資産 |
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上記にある資産が対象となることから、例えば次のような資産は「特定事業用資産」に該当しません。
事業承継税制を適用するに当たり、主な留意点は以下のとおりです。
個人版事業承継税制については、対象となる資産が限定されていることからもお分かりのとおり、特に減価償却資産としての計上額が高額となる設備投資の大きな診療科が適用に適しているものと思われます。
なお、いずれの事業承継税制においても、様々な要件等がある他、留意すべき事項は多くあります。また、冒頭でお伝えしたとおり、計画書の提出期限まで1年をきっています。この計画書は、認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要がありますので、検討は早めに行うとよいでしょう。
[参考]
国税庁HP「事業承継税制特集」
中小企業庁HP「個人版事業承継税制の前提となる認定」、「法人版事業承継税制(特例措置)」